八ヶ岳の星空の魅力 その2
「南の空のずーっと下のほうに、とても明るい星がある」という話を聞きました。今から20年ほど前のことです。その頃、私は野辺山の太陽電波観測所に勤めていました。ここにいると1年に1回内之浦のKSC(鹿児島スペースセンター)に行き、X線太陽観測衛星YOHKOH(陽光)の追跡をする当番が回ってきます。この機会をとらえてその南の星を見てみようと思いました。
その星とは、全天で2番目に明るい1等星カノープスのことです。この星は、南天の低いところに位置し、東京あたりでは高度が2度くらいまでしか上がりません。南の空がよく晴れているときでも30分間も見えたらもう沈んでしまいます。
こんなところから横着星なんてあだ名をつけている地方もあります。昔から中国では、この星を見た人には幸せが訪れるといわれ、「南極老人星」と呼ばれてきました。
1997年10月9日の朝5時頃、早朝の追跡の仕事を終えて、内之浦から真南の空を見ました。オリオン、シリウスのずっと真下、漁船のいさり火の林のちょっと上あたりを双眼鏡で見ると明るい星が見えます。うん、きっとあれが南極老人星カノープスだ!よし、これで幸せになれるぞ、と嬉しくなりました。
高根町の自宅に帰ってから、晴れた日には自宅2階のベランダに出て、南の空を見ていました。11月末の真夜中1時半頃、隣の中学校の林の上を明るい星がほぼ平行に動いていきます。「あ、あれがカノープスだ!遂に見つけたぞ!」と興奮して朝まで眠れませんでした。
カノープスは、南の空がひらけたところで、オリオン座のリゲルと大犬座のシリウスを結んだ線を約2倍、オリオンの真下の方向に目線をずらしていけば、きっと見つかります。
2月1日だと夜の8時半頃から見えはじめ、時刻が1日4分ずつ早くなって3月10日の夕方6時頃まで、条件がよければ1時間くらい見られます。皆さんも南極老人星に出会い、幸福な人生を送りませんか。
逢へばこそ かじかむ手忘れ 寿老人(カノープス) (文:斎藤泰文)